ボリス・チャイコフスキー/ピアノ五重奏曲&「戦争組曲」
(オルガ・ソロヴィエヴァ:ピアノ ヴァンブラ四重奏団 ほか)



Amazon : ボリス・チャイコフスキー/ピアノ五重奏曲

Tower : Boris Tchaikovsky/Piano Quintet

ボリス・チャイコフスキー(1925〜96)のピアノ五重奏曲(1962)は、作曲者の代表作の一つ。
とても妙ちきりんな曲です(←言い方)。
なおピョートル・イリイチ・チャイコフスキーとは血縁関係はありません。

第1楽章は淡々と続く四分音符の行列。
これと言った形式はなく、メロディやリズムの変化にも乏しく、たとえて言えば川の水や空の雲が流れていくのをボーっと眺めているような感じ。
四分音符の羅列を延々と続けながら静かに楽章を閉じます。
でも不思議に惹きつけられます、なんなんだこれは。

 第1楽章
 

第2楽章はアレグロのロンドだそうですが、テンポや強弱の変化が大きくて「ロンド感」は乏しいです。
これまたいろんな景色が現れては消えてゆくのを汽車の窓から眺めているような印象。

 第2楽章
 

第3楽章はスケルツォ風アレグロ。
冒頭ピアノに登場する痙攣するようなデジタルな主題が印象的。
無窮動的に激しく盛り上がりますが、ヴァインベルクの踊り狂うような狂乱のアレグロに比べるとどこか醒めているような気がしないでもない。
なおボリス・チャイコフスキーとミェチスワフ・ヴァインベルク(1919〜96)は親友で、アパートで隣同士だった時期もあります。
(そして奇しくも同じ年に亡くなっています)

 第3楽章
 

第4楽章はアダージョ。
最終楽章にアダージョを持ってくるのはヴァインベルクの影響なのかな。
葬送行進曲のような悲しみの音楽ですが、ヴァインベルクの最終楽章が自ら悲しみに身をよじりながら息絶えていくようなのに対し、
ボリス・チャイコフスキーは傍らに立って他人の悲しみを眺めているような、どこか客観的で醒めた態度を感じます。
12分近いアダージョなのにメロディらしいメロディ、形式らしい形式はなく、短い音型をひたすらに積み重ねてゆきます、なんなんだこれは。

 第4楽章
 

なんか冷静というか体温の低そうなピアノ五重奏曲で、派手さはないし、あまり盛り上がりませんが(←言い方)、
こういう突き放したようなクールな姿勢がボリス・チャイコフスキーの持ち味。
広く一般に人気が出ることはないと思いますが(オイオイ)、私を含めた一部のモノ好きにはこれからも珍重されてゆくことでしょう。


「戦争組曲」は1964年のソ連映画「前線を守りながら」の音楽。
国威発揚映画なんでしょうね、ソ連もロシアもやってることは変わらないなあ・・・。
ボリス・チャイコフスキーは30本以上の映画の音楽を担当したそうで、栗原小巻主演の日ソ合作映画「モスクワ、わが愛」(1974)なんてのもあるそう。
編成はクラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの四重奏。
美しい哀愁のメロディが魅力的で、ピアノ五重奏曲よりはかなりとっつきやすいです。
書こうと思えばこういうのも書けるんですね。

 第1曲 ワルツ(告別)     
 (翳りのあるメロディが素敵)

 第10曲 戦闘
 (タイトルのわりに軽妙な音楽。後半はちょっと緊迫します)

(2023.10.09.)

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